「ペットは家族」と言われるくらい、ペットは身近なかけがえのない存在として、人の心の支えとなっています。そんな大切な家族を失うことは、想像以上に受け入れることが難しい場合があります。今回は、ペットロスについて本人や周囲がどう向き合えばいいのかご紹介いたします。
ペットロスとは
ペットを失うことで、心身に不調が起きることをペットロス(ペットロス症候群)と言います。ペットロスは、死別だけでなく、失踪や誘拐、譲渡でも起こることがあります。死別以外の場合、生死がわからない状態(曖昧な喪失)となるため、戻ることを信じ、期待を抱いて待ち続けてしまうことで、悲しみや寂しさに浸りきれず、長く苦しい状態が続いてしまうこともあると言われています。
1.ペットロスの症状例
ペットロスによる症状は心身にわたり様々です。一時的に強く出て少しずつ落ち着いていく場合が多いですが、長期化すると疾患につながることもあります。
1)体の不調症状
・睡眠障害(眠れない、すぐ目が覚めるなど)
・すぐ涙が出てくる、とまらない
・食欲がない 、過食になる
・頭痛、腹痛、倦怠感、など
2)心の不調症状
・落ち着かず、集中できない
・情緒不安定(孤独感、不安、悲しみ、後悔など)
・自分はダメだと思い込みやすい
・無気力になる、など
3)症状の目安期間
一定の期間、症状が落ち着いていくか様子を確認しましょう。
①初めの2週間(特に症状が強く出やすい時期)
②2ケ月(少しずつ落ち着いていく時期)
落ち着いていく様子が感じられない、2ケ月以上長期化する場合や、悪化していく、生活に支障をきたす場合は目安期間に限らず、早めに医療機関の受診をおすすめいたします。受診を迷われている場合や不安や寂しさが強いときは、カウンセリングなど専門家への相談も検討してください。
2.ペットロスの症状が重くなりやすい傾向
ペットロスは誰でもなり得ますが、特に次のような方は長期化・重症化しやすい傾向があると言われています。
・ひとり暮らしで家族がペットだけの人
・ペットにだけ愚痴や相談など心を開ける人
・自分を責めやすい、くよくよしやすい人
・怒りや悲しみを抑え込むなど、感情を出すことが苦手な人
・他に悩みを抱えている人
・ペットの喪失に対して周囲の理解がない人
ペットへの依存が高く長期化してしまうケースや、感情を出せないことで抑うつ状態になってしまうなど、個人の環境や性格傾向からも、ペットロスの重症化は起こります。また、ペットの喪失について、職場など、周囲に理解してもらいにくい場合もあります。周りに言えず、悲しくても笑顔で仕事をするなど、本当の気もちを抑え込むことも、強い抑うつにつながります。
3.ペットロスの受けとめ方
1)受け容れるまでの心のプロセス
ペットを失ったあと、心が受け容れるまでの過程は5段階と考えられます。
①否認
ペットの喪失を事実と受け入れられず否定、否認してしまう段階。
「そんなの嘘だ、間違いなんじゃないか、信じられない」
②怒り
他責・自責・後悔などが怒りとして感じる段階。
「なんでうちの子なの、どうして病院で助けてくれないの、もっと早く気づいてあげればよかった」
③取引き/交渉
現状をどうにかしたいと、神様や周囲にすがり懇願する段階。
「どうか戻ってきますように、生き返らせてください」
④抑うつ
どうしようもないことがわかると、失望・意気消沈し、悲しみや寂しさなど深く感じる段階。
「もうこの先何も楽しみはない、ずっとひとりのままなんだ」
⑤受容
悲痛から少しずつ自分を離し、諦めとともに喪失の事実を受け容れていく段階。
「思い出も悲しいだけじゃなく楽しかったな、いてくれた時間は幸せだった」
この5段階説は、アメリカの精神科医、E.キューブラー・ロスが唱えた死を受け容れるまでのプロセス論をもとに考えられています。大きな喪失体験から得られる意味を見つけていくことで、回復に向かいます。
2)受けとめ方
受容・回復までのプロセスは、前向きになれたと思えば、また悩み苦しんだりと、心は喪失と回復を行ったり来たり揺らぎます。これは自然な回復傾向だと考えます。後ろ向きになってしまうことを否定せず、焦る必要はないので、ひとつずつ感じられる心を受けとめていきましょう。受けとめ方の事例をご紹介いたします。
・泣きたいときは泣く(気もちを放つ)
・思い出されることはそのまま思い出す(思い出さないようにと頑張らなくてもいい)
・誰かに話(気もち)を聴いてもらう
・誰かの話(気もち、考え方)を聴く
・思い出から感じること、気づくことを書き出してみる
・ペットの物を整理する(整理が辛いときは無理にしなくてもいい)
ペットロスの向き合い方で大切なことは、湧き起こる気もちを受けとめる、感じきることだと思います。大人だから、男だからと、気丈に振舞ったり、気もちを受け流そうとする人もいらっしゃいますが、無理に心を抑圧することは体の不調を起こす要因になります。聴いてくれる人がいる時や、お風呂でひとりの時間など、気もちを解放して、受けとめていくことで、回復につながります。
4.周囲の関わり方
家族、友達、職場の同僚など、周囲の関わり方によって、ペットロスの重症化を防いだり、回復を早めることができます。周囲の関わり方のポイントについてご紹介します。
1)様子を観察、確認する(睡眠・食事・言葉数が減る・表情が暗いなど)
通常とは異なる様子がないか、見守りや挨拶、声掛けなど確認してあげましょう。本人は気づけていないこともあるので、状態によっては、病院の受診やカウンセリングを、周囲から勧めてあげてください。不調の緩和・回復につながりやすくなります。
2)話を聴く
無理に聞き出す必要はありません。本人の様子から「ちょっと辛そうに見えるけど、聴いていいなら聴くよ」と声をかけてあげることから始めてみてください。本人が話した際は、そのまま「そうなんだね」と受けとめてあげることで、本人が感情を解放できるようになります。
~聴くときの注意点~
・否定しない(そんなふうに思わなくていいよ、など)
・尋問のように聴かない(なんでそう思うのかなど、強く尋ねたり、無理に聞き出そうとしない)
・自分の考えを押し付けない(私の時はこうしたからこうすればいい、など)
・自分の話にすり替えない(私も~だったよ、など自分の話題ばかりにしない)
※カウンセラーなど『聴く専門家』になるのではなく、『身近な理解者』としてそばにいてあげることが大切です
3)できそうなことを一緒に探す
ペットの遺品整理、食事や旅行など、少しずつできそうなこと、興味を持てそうなことを、一緒に考え提案してあげることで、前向きな気もちを後押ししてあげることにつながります。ただ、抑うつの段階に無理に連れ出そうとすることは控え、『今、できそうなこと』を手伝う、応援するくらいにしましょう。
関わりで大切なことは、本人の気もちを尊重してあげることです。
「あなたはひとりじゃない、頑張らなくてもいいし頑張ってもいい、応援しているよ」
そばにいてくれる人がいる、と本人に感じられる安心が、ロスでぽっかり空いてしまった心の空洞を埋めていく、大切なひとつになります。
最後に
ペットロスは、近年知られるようになってきましたが、愛情対象が人間ではなく動物であることから、理解されにくい環境もまだあります。ただ、自分の子どものように、強く愛情を感じる大切な存在を失う気もちは、周囲や本人の想像以上に、心を重く覆ってしまうことがあります。
ペットだから、大人だからと理由をつけることで、気もちを整理できる場合がある反面、曖昧にしてしまうことで、大きな不調につながる場合もあることを、改めて知っていただければと思います。
カウンセリングは、寂しさやつらさ、苦しさなど、心の痛みを和らげ、楽にしていくための傾聴を行わせていただきます。抱え込まず、我慢せず、痛む気もちは解放しながら、ペットが残してくれた大切なものをご一緒に見つけてまいります。
心の中にいるペットと一緒に、気もちのペースに合わせながら、一歩ずつ、笑顔に向かって歩いていきましょう。
